東京物語の紀子のセリフ「私ずるいんです」の真意は3つ※名シーンを考察

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小津安二郎の映画『東京物語』では、原節子が演じる紀子の名台詞「私ずるいんです」が強烈な印象を残しますよね。

この記事では名台詞「私ずるいんです」に込められた意味について掘り下げるとともに、本作を無料で見る方法についても解説しています。

東京物語の「私ずるいんです」に込められた紀子のずるさは3つ

周吉と紀子の2人のシーンのやり取りを追っていくと、以下の3つの「ずるさ」について紀子が言及していることがわかります。

  1. 亡き夫のことをいつもは考えていない
  2. さびしくて心の隅で何かを待っている
  3. 義母に本当の気持ちを伝えなかった

以下に、「私ずるいんです」のシーンの周吉と紀子のセリフを載せますね。

紀子「お母さま、わたくしを買いかぶってらしったんですわ」

周吉「買いかぶっとりゃァしェんよ」

紀子「いいえ、わたくし、そんなおっしゃるほどのいい人間じゃありません。お父さまにまでそんな風に思っていただいてたら。わたくしのほうこそかえって心苦しくって……」

周吉「いやァ、そんなこたァない」

紀子「いいえ、そうなんです。私ずるいんです。お父さまやお母さまが思ってらっしゃるほど、そういつもいつも昌二さんのことばかり考えてるわけじゃありません」

周吉「ええんじゃよ 忘れてくれて」

紀子「でも、このごろ思い出さない日さえあるんです。忘れてる日が多いんです。わたくし、いつまでもこのままじゃいられないような気もするんです。このままこうして一人でいたら、いったいどうなるんだろうなんて。

夜中にふと考えたりすることがあるんです。一日一日が何事もなく過ぎてゆくのがとってもさびしいんです。どこか心の隅で何かを待ってるんです。ずるいんです

周吉「いやァ、ずるうはない」

紀子「いいえ、ずるいんです。そういうこと、お母さまには申し上げられなかったんです」

周吉「ええんじゃよ、それで。やっぱりあんたはええ人じゃよ。正直で」

紀子「とんでもない」

周吉「(懐中時計を持ってきて)こりゃァ、お母さんの時計じゃけえどなァ。今じゃこんなものもはやるまいが。お母さんがちょうどあんたぐらいの時から持っとったんじゃ。形見にもろうてやっておくれ」

紀子「でも、そんな」

周吉「ええんじゃよ、もろうといておくれ。いやァ、あんたに使うてもらやァ、お母さんもきっとよろこぶ。なあ、もろうてやっておくれ」

紀子「(嗚咽しながら)すいません……」

周吉「いやァ、お父さん、ほんとにあんたが気兼ねのう、さきざき幸せになってくれることを祈っとるよ。ほんとじゃよ。

妙なもんじゃ。自分が育てた子供より、いわば他人のあんたのほうがよっぽどわしらにようしてくれた。いやァ、ありがと」

引用元:「わたし ずるいんです」 (「東京物語」 原節子演じる 平山紀子 セリフ)

以上の通り、紀子は「私ずるいんです」と言ってからも2回「ずるい」と繰り返し、各々の箇所で自分をずるいと感じる理由を述べています。

亡き夫のことをいつもは考えていない

周吉に「いい人じゃ」と言われても、打ち消すように「忘れていることもある」と話し、紀子は自分を「ずるい」と言います

が、紀子の強い口調から、本当はむしろ亡き夫のことを忘れられないというのが感じ取れますよね。

紀子が夫の写真を自分の部屋にいまだに飾っているのを見て、良い縁があれば気兼ねなく結婚して良いと、周吉も義母のとみ(東山千栄子)も説得するシーンがあるくらいです。

ラストシーンで、周吉が亡くなったばかりの妻の不在を受け入れようとするのに対して、紀子は8年も前に亡くなった夫の不在を受け入れられないという対比にもなっています。

さびしくて心の隅で何かを待っている

新しい夫が欲しい、などの具体的な言葉は作中に出てきませんが、さびしさを埋める「何か」を待つ心境になっているというだけで、紀子は自分を責めています。

東京にやってきた周吉ととみを実の子ども達は迷惑がりますが、紀子だけは親身になって尽くすことで、夫のいないさびしさを埋めたかったとも見ることができますよね。

紀子の「いつまでもこのままじゃいられないような気もするんです」というセリフに、将来への不安も垣間見えます。

義母に本当の気持ちを伝えなかった

周吉が世話になったお礼を言うのを紀子がかたくなに否定することから、義母のとみに貞節な未亡人を演じた後味の悪さを感じていることが読み取れます。

慣れない東京見物で疲れたとみを精一杯もてなすためとはいえ、自分の揺れ動く本当の心は押し殺して接したことを悔いているんですね。

周吉から亡きとみの形見の懐中時計を受け取って、紀子が思わず泣きだしてしまう場面は、自分のずるさへの後悔と周吉の優しさへの感動が相まって感情が露見したとも読み取れます。

「私ずるいんです」は小津も感じていた

脚本家の山田太一氏は、「私ずるいんです」は小津監督が自分に向けて書いたセリフと書いています。

設定では夫の死別から8年たっているため、紀子も思い出さない日があって当然であり、「ずるい」はきつすぎるという山田氏の疑問は、軍服姿の小津監督の写真を見て氷解したそうです。

つい8年前の大戦による多数の死者を自分もなかば忘れているという点を、監督は女優の口を借りて自身を責めたのだと、山田氏はエッセー「小津の戦争」に記しているんですね。

3度も繰り返して紀子に「ずるい」と言わせたことにも、小津自身の思いが見てとれます。

まとめ

東京物語の名台詞「私ずるいんです」は、亡き夫を忘れようにも忘れられない紀子の複雑な心境を表すとともに、監督の小津自身が紀子の口を借りて、戦争を忘れつつある自分を責めたとも解釈できます

私もあらためて映画を見てみましたが、淡々と進む作品世界の中で「私ずるいんです」のセリフだけが、一種の魅力的な「ほころび」を表すキーフレーズとして機能していると感じられました。

自分をずるいと言って取り乱す紀子を周吉がなだめるやり取りは、ホントに何度見ても新鮮に映りますよね。

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本ページの情報は2021年5月時点のものです。

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