小津安二郎の映画『秋刀魚の味』では、いくつかのシーンで「反戦」を想起させる表現が見られます。
この記事では、作品に込められた反戦という裏側のテーマについて深く掘り下げるとともに、本作を無料で見る方法についても解説しています。
秋刀魚の味で反戦を表しているセリフ
坂本「もし日本が勝ってたら、どうなったんですかね?」
平山「けど、負けてよかったんじゃないか。」
坂本「確かに、バカな上官が威張らなくなっただけでもよかった。」
戦時中に駆逐艦の艦長だったサラリーマン平山(笠智衆)と、その部下だった自動車整備工の坂本(加東大介)のやり取りです。
戦争以来で偶然に再会した2人が、軍艦マーチが流れるバー、いわゆる軍国バーに連れ立って行った先の会話ですね。
平山のセリフに、監督の小津安二郎の反戦のメッセージが込められています。
まだ戦争の記憶が生々しかった敗戦直後の時期を経て、「負けてよかった」という言葉は、作品公開時の高度経済成長期の大部分の日本人の気持ちを代弁している、とも言えますね。
ちなみに、秋刀魚の味の少し前に撮影された『彼岸花』では、田中絹代が戦時中のことを指して「あの頃は幸せでした」と語るシーンがあります。
家族みんなで防空壕で肩を寄せ合い、敵の爆撃におびえつつも、おたがいの身を守ろうとひとつになれていた時代だった、と。
戦争の色濃い「艦長」という呼びかけ
かつての部下だった坂本に、「艦長!」と呼びかけられる元艦長の平山。
行った先のバーで海軍時代を懐かしみ、軍艦マーチに合わせて掌を顔にかざして敬礼するシーンも描かれています。
バーのマダムも加わり、ミニコントのような形で3人が笑顔で海軍を演じる様子は、作中のハイライトの1つとも言えますね。
マダム役の岸田今日子の表情やしぐさが豊かで、思わず惹きつけられます。
敬礼しつつ行進を始める元部下の坂本のコミカルな演技も見どころ。
戦時中の思い出話や主人公の孤独を彩るウイスキー
サントリーのウイスキーが小道具として光っています。
軍艦バーは、赤いネオンのトリスバー。
ショットグラスに入ったウイスキーをストレートで飲みつつ、「おい、トリス」と坂本が注文します。
カウンターにボトルが置かれ、好みの量だけショットグラスに注ぎつつ、「グッと行きましょうよ、グッと」と、2人で酌み交わしつつ、戦争時分の話で盛り上がり、「もし戦争に勝っていたら、今頃ニューヨークですよ」と話す坂本。
トリスを飲んでハワイに行こう、というキャッチコピーが流行っていた時代背景も汲んだセリフですね。
映画の結末でも、平山は友人宅でウイスキーを飲んだ後、そのまま行きつけのトリスバーに流れます。
平山が「一杯もらおうか」と頼み、ママが「水割りにしましょうか」と聞くと、「いや、そのままで」と、平山。
礼服で来店している平山に、「今日はどちらのお帰り?お葬式かしら」とママが聞くと、笑いながら「まあ、そんなもんだよ」と、平山がどことなくさびしげに答え、ラストシーンへとつながっていきます。
娘を嫁にやれなかった「ひょうたん」
ウイスキーを飲む様子も印象的な「ひょうたん(東野英治郎)」は、平山の中学時代の同窓会に招かれた元漢文教師で、退職後は娘の伴子(杉村春子)と、細々と小さなラーメン屋を営んでいます。
同窓会で高級魚とされる鱧を見て、ひょうたんは食べたことがなく、「これは何ですか?」と教え子に聞き、「鱧ですよ」と答えられても「ハムですか」と聞き間違えてしまいます。
「はも、さかなへんにゆたか、か」と、字だけは知っているひょうたんですが、社会的な地位を得た教え子たちは境遇の差を感じ、憐れみや蔑みの眼で見ます。
泥酔したひょうたんを家まで送る平山ですが、自分と同じくひょうたんも妻に先立たれて娘の婚期を逃したことを知り、娘の縁談に積極的になっていくのは、作中の大きなポイントですよね。
冒頭シーンの煙突は死の象徴でもある
映画の冒頭のシーンの煙突は、煙を天へと運んでいく、つまり死を表していると言えます。
何でもない工場の煙突に見えますが、構図の美しさもあって、生と死の対比がより鮮やかに迫ってきます。
ラストで、トリスバーから飲んで帰ってきた平山が水を飲んでうなだれるシーンがありますが、頭上の電灯笠が「天使の輪」に見えるのも死の象徴ですね。
本作公開の翌年に小津が亡くなっているというのも、何かしらのつながりを感じます。
時代背景を彩るゴルフクラブはマクレガー
平山の息子(佐田啓二)が、同僚のサラリーマンから購入するゴルフクラブは、マクレガーのパーシモンウッド3本組です。
中古でも2万円というかなりの高級品で、奥さん(岡田茉莉子)の反対にあいつつも、最終的に10回払いの分割で購入することになります。
ちなみに、当時のゴルフ界の大スターだったジャック・ニクラウスが使用していて、爆発的な人気を博したクラブでした。
ビルの屋上のレンジでボールを打っているシーンも印象深いですね。
先ほどの煙突と同じく、作品公開時はゴルフが大ブームとなっていた時代背景をくんでいます。
秋刀魚の味は面白い?面白くない?視聴者の評判
結論としては、面白いという感想は作品の設定や構図の味わい深さを、面白くないという感想は他の作品と類似している点を挙げているものが多かったです。
設定や構図などが面白いというレビュー
妻を失った男が、頼りの娘を嫁に出す話。
娘を傍に置いておきたい父親、父親が心配な娘、家族というものが重んじられていた時代を感じることができた。
結婚というものも、現代とは異なる認識であることがよくわかる。
しかし、男やもめとその娘の気持ちはなぜかよくわかる。引用元:映画.com
この作品は確かに皆さんがおっしゃるように庶民生活の喜怒哀楽が込められていて美しい映画である。すぐに飽きてしまいそうでなかなか飽きない。微妙に面白いエピソードが連ね流れており、最後まで飽きない味わいのある作品になっている。
しかし本当にそれだけの映画なのだろうか?
それだったらこんなふうに人物を正面と彼から取る必要があるのだろうか?
この映画の冒頭部分に注目すべきショットがある。穏やかな対応している主人公の背後で煙がもくもくと渦巻いているショット。このショットを我々は見逃してはならない。
人間の顔というものは感情を表現するためにできているのであるが、同時に感情を偽ることもできる。引用元:映画.com
1962年の作品。とにかく味がある映画。日本の座敷での生活を表現した超ローアングルの連続。そして、独特の会話(,受け答え)と間。
当時、笠智衆は58歳。劇中では55歳。でも随分とおじいさんに感じる。今の感覚からだと、どう見ても70過ぎに見える。この50年間で、年齢に対するイメージがこんなにも変わるのかなぁ。岩下志麻は当時21歳。とんでもなく綺麗!当時の銀幕の美人ってレベル凄すぎ。引用元:映画.com
小津の他作品との類似点が気になるという声
やさぐれた一人娘と暮らしながら、中学時代の恩師「ひょうたん」の孤独に酔い潰れる姿を見て、こうはなるまいと急いで娘を嫁に出す主人公ですが、送り出した結婚式の晩、結局「ひょうたん」化してしまいます。
当の結婚する娘の立場からすると、以前の作品では、結婚するのか、恋愛と結婚は別か、といった辺りまででしたが、今回娘はあえて?間接的にフラれてからのお見合い結婚です。
気の強い長男の嫁や娘の家庭での態度は、戦争に負けて少しずつ生活も意識も欧米化し、女性がものを言い、色々な意味で女性の立場が向上してきた変化を物語るようでした。
引用元:映画.com
小津安二郎の作品を観た範囲で言うと、現代からみると普通の生活を描いてるようで、結構、経済的には豊かな家庭環境を描いてる。
この作品でも、恩師が下町のラーメン屋を営んでいる事に哀れさだけが感じられる表現をしているのだが、社会の底辺でも足掻きながらも、生き生きしてる生活はあったと思う。
その辺が、いまいち小津作品にのめり込めない理由かな。とか言いながらまた他の作品を観るのだから何かしら引き付けられる所があるんだろう。
引用元:映画.com
一部に低い評価もありますが、『秋刀魚の味』は好きな人は何度見ても楽しめる作品です。
文化人で言えば、保坂和志、内田樹、茂木健一郎氏などが繰り返し見ているそうです。
まずは、あらためて自分でも映画を見てみるのはいかがでしょうか。
ちなみに、私は動画配信サービスのU-NEXTで見ていますが、画質が良く、細かい巻き戻しや早送りもしやすいので快適に視聴できますよ。
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まとめ
秋刀魚の味は、娘を嫁がせようとする父親の「老い」や「孤独」などのメインテーマに加えて、反戦という裏テーマも読み取れる、小津安二郎の遺作であり代表作の1つです。
世界的にも評価を受けている小津の代表作『東京物語』についても、セリフを中心に分析していますので、併せてどうぞ。
本ページの情報は2021年1月時点のものです。
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